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2007年10月17日。「茄子 スーツケースの渡り鳥」DVDの発売を目前に控えたこの日、都内某所で行われた記念試写会にサプライズゲスととして高坂希太郎監督が招かれ、トークショーが行われた。お相手はお馴染みのフリーライター土肥志穂さん。作品が完成するまでの苦労話などを交え、この作品に対する思いなどを語っていただいた。また試写後、作品を見た人は誰もが気になる「あの」シーンについて、希太郎的解説をいただくことに成功!DVDを観てモヤモヤしている方は必見です!
土肥:それでは只今より、「茄子 スーツケースの渡り鳥」DVD発売記念試写会、高坂希太郎氏特別トークショーを開催いたします。私、進行を務めます、フリーライターの土肥志穂と申します。どうぞよろしくお願いします。それでは高坂監督のご登場です。みなさま、拍手を持ってお迎えください!(パチパチパチ…)

高坂:どうも、こんばんは。

土肥:あらためまして、「茄子 スーツケースの渡り鳥」高坂希太郎監督です。監督、今日はよろしくお願いします。

高坂:よろしくお願いします。

土肥:最初に、簡単に高坂監督のご紹介をいたします。高坂監督はアニメーター、作画監督として、スタジオジブリの多くの作品に参加され、2003年、「茄子 アンダルシアの夏」という自転車ロードレースを舞台とした作品で映画監督デビュー。この作品は、日本史上初のカンヌ国際映画祭「監督週間」の正式出品という快挙を成し遂げ、現地でもスタンディングオベーションで、大絶賛を受けた作品です。日本のアニメは世界をリードしていますが、この「監督週間」に正式出品するのは大変なことなんですよね、監督。

高坂:…らしいですね(笑)。僕には、ちょっとよくわからないんですよ。

土肥:ご自身の好きな「自転車」をテーマにした作品で、スタンディングオベーションを受けたときはどんな気持ちでしたか?

高坂:緊張してしまって、実のところよく覚えていないんですよ。自分の作った作品を、観客の方と一緒に観るという機会があまりなくて、本当に針のムシロのような気分で。ちょっと…、逃げ出したいような気分でしたねぇ。

土肥:ご自身もサイクリストで、日ごろのサイクリング・練習はもちろん、レースにも出られているんですよね。

高坂:自転車はいつの間にか5台くらいになってしまいました。MTBは通勤用で毎日使っています。あと、ロードが3台。それからタイムトライアル車が…。

土肥:えぇ、TTバイク持っていらっしゃるんですかぁ!? どこで走るんですかぁ!?

高坂:通勤で使ってる多摩サイクリングロードで、普段乗っている自転車との違いを感じたかったんです。それに最近TTのイベントが増えてきたので使い道があるかなと。でもマシンのカッコよさに魅せられたのが本当のところです。

土肥:あぁ…、メーカーの策略にはまってますね、それは。

高坂:そうですね!(笑)

土肥:Tモバイルが乗っていた、ピナレロのチームレプリカも持っていらっしゃるんですよね。

高坂:よくご存知ですね!

土肥:さっき裏で人から聞きました。

高坂:もうずいぶん型遅れになってしまいましたけどねぇ。

土肥:でも、かっこいいバイクですよ。…で、通勤は毎日どれくらい?

高坂:今は、片道23kmくらいですかね。家が八王子なので、帰りは多摩丘陵を使って。かなりいい練習になりますよ。

土肥:おぉ、多摩丘陵!? アップ&ダウンがあって、『ここはフランドルか!?』っていうところですよね。そして、レースも出場されていて、ツール・ド・おきなわは、200kmのレースに出て、いつも先頭集団でゴールされると聞きます。

高坂:いつも…ということはないですけど、かろうじて完走はしています。

土肥:200kmのレースは、完走だけでも大変で、途中の関門も制限時間内に通過しなければならないし。完走されているだけでもすごいですよ。

高坂:今年も出場する予定ですので、どなたか出場される方がいらっしゃったら声をかけてください。

土肥:普久川ダムの上りで監督を見つけたら、お尻を押してあげてください。

高坂:よろしくお願いします(笑)。
土肥:さっそく、新作のお話をお伺いしたいのですが、今回の舞台は、なんと「ジャパンカップ」。日本でナンバーワンと言っていい国際自転車ロードレースです。今年はちょうど10月27、28日に宇都宮での開催を控えています。私、事前に作品を拝見したんですが、ジャパンカップを観戦された方なら、「あ、この風景、見たことがある!」というシーンがいっぱいなんですよね。それが日本のファンにとってはなんとも嬉しいところなんですが、ここまでリアルに再現されるのに、どういった取材をされたんでしょうか?

高坂:スタッフを全員連れて行き、裏方、表舞台…と写真を撮りまくって。そして何よりレースも観戦して、現場の空気を体で感じてもらうことを第一に取材しました。

土肥:ここで、この作品の根底に流れているテーマを読み取るために、ある1人の選手をご紹介したいと思います。なぜ、この選手をみなさんに知っていて欲しいか…、それは作品を観てからのお楽しみということで。その選手というのが、マルコ・パンターニです。マルコ・パンターニ。ご存知の方も多いかと思うのですが、軽くご紹介します。イタリア人ライダーで、1970年1月13日生まれ。1998年にジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスを個人総合優勝し、いわゆる「ダブル・ツール」を達成した偉大な選手です。スキンヘッドにバンダナをつけた姿が印象的で、強いばかりでなくキャラクター性に富み、世界中のファンから愛されました。しかし、彼を取り巻く問題に追い込まれ、選手活動を続けることはおろか、心の病にかかってしまい、2004年2月14日、イタリアのあるホテルの1室で孤独な謎の死を遂げています。彼の生まれ故郷で営まれた葬儀には、数千人が参列。世界の自転車ファンが悲しみに包まれた日となりました。私も、パンターニの死の知らせを聞いたときには、頭の中が真っ白になったことを今でも覚えているんですが、高坂監督はこのニュースを聞かれたとき、いかがでしたか?

高坂:やっぱり、驚きました。それと同時に、『仕方ないかなぁ〜』という気もしました。

土肥:『仕方ない』というのは?

高坂:生活面も含め、すべてを削り落とし自転車レースに特化することで、彼は栄光を勝ち得てきました。でも、実際に年を取って力も衰えたとき、人間のもろさが露呈した。そんなふうに思いました。

土肥:ものすごい栄光のときがあり、やがてパッタリ勝てなくなったとき、みんなが忘れていった…というのもありますね。

高坂:そうですね。生きる上で、『本当に大事なものはなんだ?』ということに、あまり目を向けないで、ひたすら勝利…、速く走ることだけを考えて生きてきた。それが、招いた結果なのかなぁと思いますね。

土肥:じゃあ高坂監督は、パンターニという英雄的選手に、人間的な面を見られているということですね。ぜひ、パンターニのことを頭に入れて、これからの作品をみていただきたいのですが、開演前にもう少し見どころを。作品の中には、実際のものをパロディにしたシーンや登場人物がたくさん出てきますね。たとえば、「鶴カントリークラブ」が「亀カントリークラブ」とか。ほかに注目してほしいパロディはありますか?

高坂:パロディは、もともと原作に出てくるものなので、それをできるだけ踏襲しているんですけど。まぁ、ちょっとおもしろい登場人物で、「ウルター・ゾマン」という選手がいるんですけど。どうせだったら、ウルトラマンみたいにしたら、目立つというか、ある世代限定かも分かりませんが、思い入れしやすいかなぁと。自転車ロードレースがヘルメットを必ずかぶらなければならなくなり、サングラスもするので、レース中の選手の個性がなくなってしまったんですよね。だから、ウルトラマンみたいな格好をしていれば、個性が出せる。

土肥:ウルター・ゾマン。『どこにいるか探してください』と言いたいところですが、すぐわかりますから! それから、途中で大きな観音像が出てきますが、あれはジャパンカップの会場近くにある、大谷の平和観音ですね。

高坂:そうですね。大谷石の採掘場にある、大きな観音像ですね。よくそこではコンサートなんかもおこなわれるみたいで、有名なところだそうですね。

土肥:ジャパンカップには何度も行っているのに、あの観音像を見たことがなかったので、今度のジャパンカップの際には、ぜひ行ってみようと思います。27メートルもあって、石を総手彫りで作った観音像なんですよね。

高坂:ただ僕らが取材したときは、崩落の危険があるということで、上半身のあたりまで登らせてもらえなくて…。正面からしか見てないので、ちょっと違うところもあるかもしれませんが、お許しください。

土肥:そんなー。これは忠実に再現する作品ではないんですから。それよりもこの作品には、「ジャパンカップに行ってみよう」とか、何と言っても、「やっぱ自転車ロードレースっていいなぁ」と、心を動かされる見どころが満載です。最後に、これからいよいよ開演となりますが。作品を待つみなさんに、監督からひと言お願いします。

高坂:前回以上に頑張って作りましたので、楽しんで見ていただけたら嬉しいです。

土肥:監督が、自転車の練習時間を削ってまで作った作品です!(笑)

高坂:かなり削って、太っちゃいました(笑)。

土肥:これで沖縄完走できなかったら!?

高坂:ははは…。

土肥:ぜひ、お尻を押してあげてください。ありがとうございました。「茄子 スーツケースの渡り鳥」高坂希太郎監督でした!
原作のほうは、ザンコーニが1周早くゴールしてしまっても、その解釈は読者任せ…になっているんですが、このDVDに関しては意味がついてしまいましたね。意味がなくても、読み手で解釈してもらえばいいんじゃなかっていう、そのスタイルはアリだと思うし、そういうのも好きなんですけど。でも、原作の黒田硫黄さんと打ち合わせするときに、「最初にマルコ・ロンダニーニの自殺のシーンエピソードを入れると、あのゴールシーンに意味が出てきますよ。いいですか?」と聞いたら、「いいですよ」と言ってもらえたので。

あのザンコーニが出しているオーラみたいなの、「オーラ」と言ってしまうとおどろおどろしいし、テレくさいので、スタッフ内では「加齢臭」って呼んでいたんですよ(笑)。

筆者注:あの1周早くゴールしたシーンの真意を聞き出したいのに、明言を渋る高坂監督。そしていよいよ口火が切られる!

まぁ、ザンコーニは…。あっ、ホントこれは、観た人の解釈でいいんですからね。その…、ザンコーニは、ロンダニーニの仲間だったじゃないんですか。それで、あえてザンコーニが1周早く…、本当のゴールじゃないゴールを切るワケですよ。それが、自殺したロンダニーニに対する問いかけなんです。ロンダニーニが志半ばで自殺してしまうことは、1周前でゴールしてしまうことと同じことなんじゃないかという問いかけ。

ザンコーニは満足してゴールしたのではなく、ロンダニーニの自殺を引きずって、当初予定になかったジャパンカップへ出場して、何かを確認…、そうじゃないなぁ、モヤモヤした気持ち…、それを解消したかった。走らずにはいられなかったということなんだろうと思います。

ロンダニーニが死んでしまったことに対する問いかけもあれば、自分の中にも「その気持ちはわかるよ」というのがあると思う。そういうアンビバレンスなものがあるんだけど…。単純な思考ではなくて、いろんなことが巡り巡っているんだと。ザンコーニ自身も選手としては晩年で、これからの身の置き方、身の引き方とか、その後の生活とか。

ちなみに「ロンダニーニ」というのは、ミケランジェロの彫刻、ピエタ4作品のうち、最後の作品のロンダニーニから取ったんです。ミケランジェロが死ぬ5日前まで手がけていて、完成しなかったというアレ。結局ミケランジェロは、20代のときに手がけた最初のピエタを越えられなかったんですよね。そして、完成せずに死んでしまった。輝くような才能を発揮するのは一時なんじゃないかな。でそれはスポーツ選手も一緒。そこが、劇中のロンダニーニとかぶっているんです。当初はマルコ・パンターニにかけて、マルコ・ロンダーニにしようかと思っていたんですが、やはりロンダニーニのままにしました。

でもホント、あのシーンの解釈は観た人それぞれの解釈でいいですからね。


どーでしょう! 監督は「あくまでそれぞれの解釈」と念を押しますが、監督の想いを聞くと、さらにこの映画が楽しめますね。この想いを胸に、あなたももう一度観返してみては!?
 

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