今回のゲストはロードレースを舞台にした青春小説ともいえるミステリー『サクリファイス』(新潮社)で、第10回大藪春彦賞を受賞した近藤史恵さん。自身もロードレースファンとのことで、その執筆の意図、舞台裏、そして近藤さん自身がどのようなサイクリング観を持っておられるかなどを語っていただいた。聞き手はプロサイクリングを追うフォトジャーナリストの綾野 真(CYCLINGTIME.com)。話は期せずしてマニアックなプロサイクリング談話になるのだった。
さっそくですが、近藤さん自身も大変なサイクリングのファンと伺っています。CYCLINGTIME.comはご覧になっていますか?

はい、いつも見ています(笑)。

何がきっかけで自転車レースをミステリーの題材に使おうと思われたんですか?

もともとはただのファンとして、プロサイクリングを楽しく観戦していたんですが、この小説のストーリーが頭に浮かんだから書き始めたんです。それまでは、題材にしようと思って観ていたわけではなくて、本当に楽しく、ただ面白くて見ていただけです。それが、唐突にこの話のプロットが浮かんだので、「じゃあ書いてみようかな」という気になりました。

いままで他に、こういったプロサイクリング、あるいはロードレースを題材としたミステリーはあったんですか?

3年前に出版された斎藤純(さいとう・じゅん)さんの『銀輪の覇者』(早川文庫刊)という作品があります。創作だと思うのですが、戦後の日本が舞台で、日本でステージレースみたいなものをするという設定でミステリーになっている作品です。でも現代のプロチームを舞台にしたものはおそらくないと思います。

ロードレースはすごく奥が深い競技だと思います。個人競技であり、チーム競技でもあり、またルールも複雑。空気抵抗の要素もあり、「実際にレースを体験した人間でないとわからない部分が多い」と思います。我々メディアも、初心者にわかるようにと常に説明を加えながら報道することを心がけているのですが、これをミステリー小説の題材とする場合、自転車競技の奥の深い部分こそが高いハードルになってしまうと思います。その点を意識したことはありませんか?

もともと歌舞伎を舞台にしたミステリー小説を書いていまして、その場合にも歌舞伎を見ていない人にも分かるということを心がけていました。実際、読者の中には歌舞伎を見たことがないという人も、歌舞伎が好きな人もいて、双方とも楽しんでいただけるようにと心がけていて、みんなが知らないことを分かりやすく書くことには割と自信があったので、それほどハードルの高さは感じなかったですね。
思っていたよりもうまく、分かりやすく書けて、なおかつコンパクトにまとまったので良かったかな、とは思っています。

私は自転車競技を知っている側の人間なので、未知な人の感覚ではいられないのですが、読んでいても全然説明くさくなくて、冒頭から自然に入っていけ、ミステリーに違和感なく集中できて良かったです。

ありがとうございます。知っている人と知らない人が同時に楽しんで頂くためには、解説しすぎてはだめなんですよね。知っている人には『そんなこと知っているよ』と感じて、解説が煩わしいから、そのさじ加減が難しいとは思います。ただ、いままでもそんな感じで歌舞伎を題材にして書いてきて、それを自転車レースに応用できるかな、と思いました。

担当編集者・新井久幸さん(以下、新井):じっさい私はまったく自転車レースというものを知らなくてこの作品を読んだのですが、非常に良く分かった気がしたので、レースを観たいな、と興味が沸きましたよ。

そうですね。私も、「ロードレースの基礎知識」みたいなものをくどくど説明するんじゃなくて、こういうものがあればこそ、説明しなくても誰もがこれを元に奥の深い世界を分かってくれるんじゃないかな、と感じました。「目から鱗」です。

物語の流れの中で説明していくので、説明されている感じを受けずに読んでいただけたらいいな、と思って書きました。

この本がもとで自転車ロードレースに興味を持ってもらえる、という役割は大きいなと実感しました。

新井:実際僕がそうですよ(笑)。

今までは私の本でそこまで話題になったことはなくて、こんなにたくさんの方たちに読んでいただいたのは初めてのことなので、そのなかの何人かは自転車ロードレースを観てくれるんじゃないかな、と思っています。実際、図書館でも、何十人と予約待ちとか。

皆さん買ってくださいね(笑)。でもまあ、借りられているということは、出版されている数より多くの人に読んでいただけてもいるということですよね。私が普段自転車の仕事をやっているということを知っていて、でも自転車レースのことは知らない知人が、「こういう本があるよ」、とサクリファイスを教えてくれたことがありました。当然私は知っていたのですが(笑)。こういう本があると、知らない人にも薦めやすいです。知的な部分も感じられるし、自転車を題材にしたもので大人が十二分に楽しめるという作品は、なかなかなかった。

そうですね、マンガとかはありましたけど(笑)。

近藤さん自身はサイクリングされたりするのですか?

クロスバイクくらいは乗るんですが、ロードレーサーは乗ったことがありません。もちろんレースもしたことがありませんし。5〜10kmくらいの近場はたまに乗りますが、その程度です。普通の人よりは自転車が好きですけれども、スポーツとして楽しんだり、趣味というほどのものではありません。

いままで他にスポーツものを手がけて書いたことはありますか?

いえ、ないです。まったく。あまりスポーツ好きではなかったので、スポーツをこんなにはまって観戦するようになったのは、サイクルロードレースが初めてです。

そのきっかけは、いつくらいからですか?

2005年からですね。ジロ・デ・イタリアを最初に見ました。もともと自転車を買おうと思って調べていたときで、自転車というモノ自体が、ものすごく魅力的だなあ、と思ったことと、ヨーロッパが好きだったので、イタリアやフランスの景色を観ているのが気持ちよくて観始めたのがきっかけですね。そしてその2005年のジロが面白かったので、それであっという間にはまって、それからDVDで2003年くらいまで遡って観て、フランスに行ったときにツールの過去十年くらいのDVDで何本か面白そうなのを買ってきて観たり。そんな感じで遡って観ていますが、実際に観始めたのは丸三年くらいですね。

2005年ジロといえば、サヴォルデッリが勝った年ですね。

そうですね。前半はディルーカが活躍して、ああイケメンがいるなあって。まずそこで引っかかって、表彰台に立つディルーカを見てまた、かっこいいなぁ、マリア・ローザが似合うなあと。レースも面白くて夢中になりました。最終ステージのひとつ前、19ステージで、シモーニとディルーカとルハーノが逃げて、暫定ではシモーニがサヴォルデッリを追い抜き、リーダーになりながらも、ディルーカの脚が痙攣して...。その後でサヴォルデッリが"しれっとした顔"でゴールして。それが面白くて、今まで自分が知っているスポーツとは違う何かを感じましたね。あのときサヴォルデッリの周りには他のチームの選手たちがいて、その選手たちと一緒に行くことによってうまく1位を守れたりとか、サヴォルデッリだけが必死になってがんばっているのではなくて、そういう戦略的なことというのが、すごく面白かった。

とにかくいろんな要素が絡みますからね。

そうですね。私は、「一生懸命がんばって最後に感動が」っていうより、ちょっとクールなスタンスが好きなタイプなので、ロードレースはちょうどいいんです(笑)。あと2005年のジロでびっくりしたのは、ベッティーニがスプリント勝負に参加しているときに後ろからマキュアンが来ているのを見て、「マキュアンが来たならもういいや」っていう感じであっさりと手を抜いてしまったところ。「こういうスポーツって他にはないなぁ」って。強い人が来てるからもうやめちゃうっていうのも、どうなんでしょう(笑)。「どうせ勝てない」「どうせマキュアンだろう」って、あからさまに力を抜いているのを見て、逆にすごい面白さを感じました。ベッティーニも超一流の選手だからこそ、冷静に場を読んでいる。他にもあります。スプリントであんなに強いペタッキが山で非常に苦労しているところとか、後でリザルトを見たら後ろのほうにペタッキを囲むようにファッサボルトロのアシストたちがたくさんかたまっているのとか。とにかく、ほかのスポーツでは感じられない面白さというのを感じました。

サクリファイスのテーマにもなっている「エースとアシスト」の関係でいうと、2004年ジロのクネゴとシモーニが面白かったのではないですか?

あれはあれですごく面白かったです(笑)。大好きなレースのひとつです。

ツールよりもジロのほうが、ドラマを感じられますよね。

ツールはずっとアームストロングが無敵で勝っていましたからね。でもウルリッヒとヴィノクロフが追い上げた2003年ツールはDVDで観ても面白かったですね。

あれは「近代ツール史に残る最高に面白い年」と評価が高いですね。

ウルリッヒとヴィノクロフが追い上げて、ランス(アームストロング)は落車してから変なターボが掛かるんですよね。観客の持つサコッシュの紐に引っかかって、今度はペダルをはずして。そのあとにスーパーランスにパワーアップしちゃう。その前のタイムトライアルで脱水症状でウルリッヒから一分近く遅れたりしたんですよね。他のスポーツではあり得ない複雑さっていうのが魅力だと思いますね。

近藤史恵(こんどう・ふみえ)

小説家。1969年5月20日生まれ。大阪府出身。1993年にミステリー『凍える島』で鮎川哲也賞を受賞。複雑な女性心理を描く細やかな筆致に定評があり、『ねむりねずみ』『桜姫』など歌舞伎を題材にしたシリーズで知られる。他著に『にわか大根』『ふたつめの月』などがある。
2007年8月に『サクリファイス』を刊行。2008年に同書で第10回大藪春彦賞を受賞した。大藪賞はハードボイルドやサスペンスの色合いが濃く、受賞は異例のことと言われる。近藤さん自身もロードレースファン、特にジルベルト・シモーニのファンということもあって、この小説が出来上がったという。大藪賞贈呈式で近藤さんは「大藪春彦先生に連なるエンターテインメントの要素があると認められ、励みになります」と喜びを語っている。

第10回大藪春彦賞を受賞作『サクリファイス』(新潮社)は、サイクルロードレースの世界を舞台にした、青春小説ともいえるミステリー。主人公は国内プロサイクリングチームの若手、白石誓(しらいし・ちかう)。物語は、日本の小さな自転車チームで走っている青年が、挫折や悲劇を乗り越えて、最後はヨーロッパのビッグレースに出場するという、極めてシンプルな成長物語を軸にして、恋や友情といった青春小説の要素、ロードレースの面白さが無理なく描かれ、最後にタイトルである「自己犠牲」というテーマが伝わってくる。チーム内の力関係で生まれるエースの座とポジション争い、そして矢継ぎ早に起こる不測の悲劇。そこに隠された真実と思われる事実さえも二転三転するミステリーだ。2008年の今後の展開として、「Story Seller(小説新潮5月号別冊)」(4月10日発売)に外伝が掲載された。また、年内には「新潮ケータイ文庫」で続編が連載される予定だ。

近藤史恵著
8月31日発売
46判ハードカバー 256頁
予価1575円(税込) 新潮社

大活躍したダニーロ・ディルーカ。自転車選手と思えないカッコよさに惹かれた
(ジロ・デ・イタリア2005)
マキュアンがきたらベッティーニが諦めた? あっりしてるなあ、と、逆に面白さを感じた
(ジロ・デ・イタリア2007)
ペタッキの勝利の影に支えるアシストがいる。自分を犠牲に尽くす姿はまさに「サクリファイス」だ
(ジロ・デ・イタリア2004)
山岳ステージで遅れるペタッキをゴールに届けるためにアシスト全員がペタッキを励まして一緒に走る。そこまでするのが面白い
(ジロ・デ・イタリア2004)
観客のサコッシュに引っかかって落車、ペダルを外してまた転倒しかけて...それから火が点いたアームストロング。すごい勝ち方だったなぁ
(ツール・ド・フランス2003)
アームストロングに差をつけようと鬼のような形相で逃げるウルリヒ。まさに激闘だった
(ツール・ド・フランス2003)
アームストロングをぴったりマークするヴィノクロフ。最後まで熾烈な戦いだった
(ツール・ド・フランス2003)
山頂ゴールでシモーニを置き去りにしたクネゴの決定的アタック。まさに下克上の瞬間
(ジロ・デ・イタリア2004)
少し天然のクネゴ。でもホントはしたたかなんじゃないか、と思った
(ジロ・デ・イタリア2004)
最後にはクネゴに詫び、抱いて祝福したシモーニ。文句なく美しいシーンだった
(ジロ・デ・イタリア2004)


本当によくご存知ですね。さて、話をサクリファイスに戻しますね。普通、あるミステリー作家さんが、たとえば京都・祇園を舞台にした殺人事件を書こうとしたら、祇園に取材旅行みたいな事をすると思うんですが、近藤さんの場合は取材はどうされていますか? もっぱらそういう映像で知ることのほうが多いんですか?

そうですね。私はもともと取材しないタイプで(笑)。なんというか、人から話を聞いてしまうと遠慮がでてしまうし、悪く書いちゃいけないという意識が働くので、話は聞かずに書いてしまって、そのあとでチェックしていただくことにしています。それから、個別のわからないことに関して質問したりとかはありますけど、基本的に書く前の取材というのは、あまりしないです。想像力に制限をかけたくないんです。これ(サクリファイス)も、「レース現場で取材したんでしょ」ってよく言われますけど、してないです。テレビを観て、解説者の方たちが話していることとかを聞いて知識として覚えていって、あとは本とかは読みましたけど。もちろんサイクリングタイムも。

それは驚きました。サクリファイスに描かれている選手の心情とかは、まさに選手のそれ。選手とレースに実際接していないとわからないような部分も書かれているので。

そうですかねぇ。でもそれは想像で。たとえば、こういう業界にいれば、「こうじゃないかな」とか、「そうなるしかないんじゃないかな」という想像で書いています。

「プロフェッショナルならこう考えるだろう」といったところですか。

そうです。

でも「プロフェッショナルならではの理屈でいけば本来こうなんだけど、葛藤の結果こうなった」というところまで書いてらっしゃるので、びっくりしました。例えば主人公の誓(ちか)がアタックして逃げちゃうときの描写なんかはとくに。

既存のスポーツ小説というのは、主人公がこんなに屈折していないですよね。スポーツ小説の主人公になるような人物は、もっとストレートな性格で、屈折してるにしてもこういう屈折の仕方をしていない。サクリファイスは「割り切り型」の主人公じゃないですか。コンプレックスとかももちろんありますけど、なんとなく割り切って、淡々としてる部分が珍しいんじゃないかと思いました。ただ、だからこのサクリファイスがスポーツ小説っぽくはないかな、と。アスリートの方から見ると共感出来ないんじゃないか、と、正直思ったんですけど、意外にそうじゃないんだな、と。「実際のスポーツをやっている人の気持ちに近い」と言われたこともあったので、ああ「体を鍛えたから心も爽やか」というワケにはいかないんだな、と。文系の人間が陥りがちな錯覚みたいなものは間違ってたんだな、と感じました。

私もロードレースの選手の勝利インタビューなどで、当然ジャーナリストとして「模範解答」を期待して聞いているんですが、選手が答える言葉は、実はもっと普通に人間として考えているんだな、と感じることが良くあります。自分の思いつきでアタックして行ってみたとか、ただの偶然が重なって勝てたとか、競い合っている別の選手のことを意識しているわけではなかったとか、そういうことを言っている面白さと共通するものを感じました。選手のインタビュー、コメントって面白いです。聞いてみるまでわからない。当然こっちは「そのつもり」で勝負をかけてるんだろうと思って聞いたら、実はぜんぜんそうではなくて、状況を把握できてなかっただけ、とか。ところで、好きな選手はジルベルト・シモーニと伺ったんですが。

そうですね、一番好きです。あと、サヴォルデッリも好きです。あの2005年ジロの第十九ステージで活躍した人たちは、一番好きな人たちです。ディルーカとか。クネゴも好きですよ。かわいい顔して優等生そうに見えて、じつは...。

しれっとふてぶてしいとか?

そうそう(笑)。

主人公の誓(ちか)や登場人物は、誰か選手たちがモデルになったのですか?

いや、ないですね。モデルを作って書くというやり方はしてないので、特にないです。

部分的にも?

物語の中で、誓が感銘を受けるレースというのは、ジロでのガラテとフォイクトのゴールシーンをそのまま使いました。

2人で逃げて、終盤の上りでガラテがずっと前を引き続けて、最後の平坦になってのゴールでスプリントが得意なフォイクトがガラテに勝利を譲るという。あれは負けたフォイクトの態度が大きく讃えられたレースでした。ところで、タイトルは、最初から『サクリファイス』だった?

はい、書き始める前からサクリファイスというタイトルにしようとは思ってました。で、「もっと自転車レースっぽいタイトルにしたほうがいいんじゃないか」というふうな意見もあったのですが、考えてみて、やはりサクリファイスというタイトルがしっくりきたので、このままいかせてくださいとお願いして。

新井:発売一ヵ月半くらい前まで、もっとわかりやすいほうがいいと。代案のタイトルをいっぱい、山ほど出したんですけど、どれもしっくりこなくて、じゃあもう仕方がないということで(笑)。

でもまあ、ある意味で自転車競技を象徴するような言葉ですよね。この言葉が自転車選手からでたら、ぐっとくる。その場面で使われるべき言葉ですからね。昨年のツールではライプハイマーが勝負の山岳ステージを前に「コンタドールのために犠牲になる覚悟ができている」と話しました。

やっぱり、かっこいいですよね。職人的アシストの仕事をまっとうする人たちっていうのは。実際名前の出る数は少ないですけど、観てたらかっこいいなって思いますね。

「サクリファイス」という面でみて、名勝負みたいなものは思いつきますか? あるいは心に残る選手などは?

ピエポリなんかは、職人芸みたいな感じでいいですね。シモーニを勝たせたときのモンテゾンコランでのレースは、実は彼が一番強いんじゃないだろうか、っていう。シモーニがちぎられるんじゃないかと思いましたね。かっこいい。あとペタッキ軍団。ゴール前では列車を作ってペタッキを引きまくって、山では遅れるペタッキを励ましまくる(笑)。

プロフェッショナリズムというか、光りますよね。

そうですね。それがあるからこそ、たまに下克上みたいなものがあっても面白いです。ボーネンの脇をすり抜けるステーグマン。ボーネンも一回目は笑ってたけど、二回目は怒ってましたね。周りもそういう空気になって、テレビからもそれが伝わってきました。だから、いまだにクネゴが嫌いだっていう人もいますよね。あれがどうしても納得いかないという人がいますね。私はシモーニのファンですが、アレはアレで面白くていいんじゃないかと思うんですけど(笑)。

あのときは、ジロの関係者全員が、「ミステリーだなぁ」と話していましたよ。シモーニは本当にクネゴに勝たせていいのか、クネゴにエースの座を譲ってアシストに回るのか、って。

そうですね。最初からクネゴがエースだったのかどうだったのか真相を知りたいです。前半は確かにシモーニがクネゴを引いたりしてましたものね。

最後にはシモーニは怒ってましたけど。そしてミラノでひっそり涙を流した。

去年なんかも、シモーニファンの間では、リッコに「2004年のクネゴフラグが立ってる」って言ってたんですけど、ピエポリがいたせいでうまくまとまったんじゃないかと...。

シモーニが独立しましたね。セッラメンティPVCに移籍して、エースです。

でもそれは円満移籍だったんですか?

大きな金額を提示されて、またエースとして走る場を与えられたからでしょう。年齢的にもうピークを過ぎたとはいえ、去年でも4位ですからね。凄いですよ。取材していて感じるのは、シモーニはいつも堂々としていることです。真の偉大なチャンピオンという感じがします。

どこかのインタビューで、「彼は別の星の人みたいだ」とチームメイトがしゃべっている記事を目にしました。あまり普通っぽくないみたいですね。

浮いているというわけではなく、絶対的なチャンピオンとして輝いていますね。誰からも尊敬されているし、身振り手振りもすごくスローで、堂々としているんですよ。ちょっと格が違う感じ。

へぇ、あれだけ口が悪くても、尊敬されてるんですね。でも、そこがファンからすると良いんですよね。思ったことをズバズバ言ってるということは、それ以上の言葉を腹に秘めていないんだな、ということだと。

2006年ジロではバッソともめていましたね。「バッソがエイリアンみたいに強いのは変だ」「ゴール前にバッソが"金で優勝を譲って欲しい"と交渉してきた」とか、TVカメラに向けて喋っちゃう。でも、真実は分からないけど、結局ズルをしていたのはバッソだったのではないか? という状況ですよね。今になるとシモーニは何も包み隠さずに喋っていただけなんだな、って思えます。

でも、あのときはかなりシモーニ株はさがりましたけどね。大人気ないなあと。そこが魅力でもあるんですけど。

でも実際そういう取引をされようとしたと言うんだったら、あり得るなって思いますね、今となれば。
ところでジロに観戦に行く予定は?


じつは今年現地に行こうと思ってたんですが、ディルーカを巡るごたごたで心が萎えてしまって。あと、去年のジロのDVDを観てたら、十分面白いから、別にいいかなって。家でテレビに張り付いて観てた方がレース展開もよくわかって良いのかな、と思いまして。

取材に行っていつもジレンマを感じるのは、現地に居てわかることもあれば、居るからこそ分かりにくいこともあって。今は情報化社会ですから、TVとネットで観戦するほうが全体像も細部も把握しやすいという面がある。逆に現地で動いていると、リアルタイムでみんなが知っていることを分からないこともありますね。でも、ぜひあの空気感は肌で感じて欲しいですね。リアルに観るのは、やっぱり違います。

犬を飼っているので長期間預けるのがかわいそうだなっていうのもあります(笑)。ちょっといろいろあって今年のジロは無理かなあと。でもツールドフランスの最終日あたりを狙って、パリに行って雰囲気だけでも味わってこようかなとも考えたりしますが。やっぱり実際に行かないと見えないこともあるのかなぁ、と思うんですけれども。

観戦ツアーなどで現地へ行って取材するというのはどうですか?

私は「陸マイラー」で、すでにヨーロッパに行けるだけのマイルが溜まっているんです。団体行動が苦手なので、ツアーはちょっと(笑)。でも車の運転が出来ないので、ツアーで行かないとラルプデュエズの見所は見られないし、困ったなぁ。ラルプデュエズって、朝9時に登ると、降りるのが夜9時くらいになるでしょう? 日が落ちると寒いし。普通のステージもスタートを観たらゴールに間に合わないんじゃないかという移動の日々ですし。体力がないとちょっとつらそう。そういう意味では、春のクラシックを観に行ったほうがいいのかもしれませんね。

それもいいかもしれませんね。観戦と、旅自体ものんびり楽しめそうですから。

まあ、ジロが一番好きなので、いつかはジロを観たいなぁ、とは思いつつ、決めかねているのですが。

最近のプロサイクリング界にはいろいろなゴタゴタがありますが、こうなってほしいという希望はありますか?

もちろん、(ドーピングの)膿を出し切るというのは大事ですが、ファンと選手をないがしろにするのはやめて欲しい。レースを主催したり管理する上層部が選手に対してリスペクト(尊敬)の念を持っていない感じがすごくするので、それが不愉快ですね。実際に走っている人たちを大事にしないで、いったい誰を大事にするんだろう、と思います。頭から悪者扱いみたいな感じで決め付けている。そういうことをするとファンの気持ちも離れていくと思います。そういう意味でもっと良くなってほしいと思います。レースで盛り上がった後で、気持ちがガクッとなるようなことは、やめてほしい。

とくに近藤さんお気に入りのディルーカの一連の件はおかしいですよね。

本当におかしいですね。実際に何かが発見されたわけでもないのに。

問題の医師と知り合いだったというだけで、陽性になっていないんですよね。もしかしたら裏にマフィアがいて、出場を妨害しているのかもっていう噂まででています。

「ディルーカに勝たれたら困る人たちがいて、裏で...」そんなことを小説に書いたら、「そんな馬鹿な、あり得ない」って言われるんでしょうね。ミステリーになる(笑)

でも本当にミステリー以上、謎ですね。検査自体もおかしいですし。本来レース中に検査できない機関が勝手にやっているし。

ディルーカだけがそういうことを言われているので、よくわからないですね。ホントに今、ジロで優勝した選手のなかでプロツアーチームにいるのはクネゴだけじゃないですか。それって何かおかしいですよね。一番中心にいなきゃいけない人たちが中心でないチームにいるというのはおかしい。ガルゼッリなんて、去年も2回ジロでステージ優勝してるのに、今年は出れないなんて、おかしい。

ところで、こんなお話してていいんですかね、インタビューになってるんでしょうか(笑)。

いえ、すべて素晴らしいお話です。サクリファイスはそういう想いのある方が書いた本ということがよく分かります。自転車レース小説でなく、ミステリーだという点を間違われては困りますが(笑)。ところで、今近藤さんの周りで自転車の話で盛り上がってる方たちは結構いらっしゃるんですか?

そんなに多くはないんですけど、2,3人くらいのお友達で、私より前から好きだった人たちとよくお話します。

女性の方ですか?

ええ。女性のファンも多いですね。選手のキャラが立ってますよね。失礼な表現ですけど。味わいやすいというか、タイプがいろいろいて。たまに新しいキャラも出てきて(笑)。

サイクリングタイムのアクセスもずいぶん増えました。女性の方も増えて、スポーツ観戦としてエンターテイメント性が高いんでしょうね。別府史之もがんばっているし。ところで日本人選手に期待するところはありますか?

別府さん、もう充分頑張ってらっしゃるとは思うんですが、環境が良くなって、その頑張りがもっと生かせるようになったらいいな、と思います。ディスカバリーチャンネルが解散したりとか、自転車選手はとくに環境自体に左右されちゃうことが多いので、彼を取り巻くものが、資質と努力を活かせる環境になったらいいなと思います。

日本の自転車ロードレース選手って、ほかのスポーツに比べて高給がもらえるわけでもないし、夢がすごく大きいわけでもない。ヨーロッパに行ける人っていうのも少しですし、そういう状態でがんばっている人たちだと思うので、全体的に良くなって、そういう人たちがもっと評価されたり、ほかのスポーツと同じくらい一般の人たちの注目が浴びれるようになったらと思います。

やっぱりでも、悲しい話ですけど、いま見やすいのは海外のレースじゃないですか。興味を持った人が最初に見やすいのはツールとかのグランツールですよね。むしろ日本のレースを見ることが難しい状態なので、日本の選手を応援したい気持ちはあるんですけど、なかなか機会がないです。

最近ではかなり忙しいし、もともと腰が重い人間なので、遠出して観に行くのは難しいです。もうちょっとテレビとかで観れるようになるといいですよね。そうなると、広告効果も出て、スポンサーも増えるんじゃないかと思います。

自転車レースって、タダで観戦出来るし、いいと思うんです。あちこちいろんな土地に行けるし、スタジアムが必要というわけではないですから。公道レースは難しいですが、ブームになったらいいと思うんですけど。

カタールで走ればカタールの世界観が味わえるし、場所場所でまったくテイストが違ってきますよね。

そんなに場所は遠くないのに、フランスとイタリア、スイスの景色はやっぱり違いますし。

サイクリングタイムの読者へメッセージをお願いします。

サクリファイスをまだ読んでいない方は、是非手にとっていただけたら嬉しいです。今後も続編とか外伝を書いていこうと思いますので、できましたらその前に(笑)。

あれ、続編の内容予告はしないのですか?

続編の予告をすると、サクリファイスの結末がばれてしまうので(笑)。

ミステリーを読みなれた人が読むと、叙述トリック的なものだと考える方が多いらしくて、まあそういうふうに書いているんですけれども。そういうこともあって、あまり結末は言えません。ただ一応、続編はツール・ド・フランスを書こうと思っています。フランス語を習っていますし、フランスには今まで七回行っていて多少は土地勘があるので、ツールは書けると思うんです。ジロは無理ですけど。サクリファイスは漫画化もされるので、活字の苦手な人にはいいかもしれません。でも、小説のほうも読みやすいと思うんですよね。あまり本を読まない人にとっても。

私はサクリファイスを2時間ぐらいで一気に読みきりました。まさに「手に汗握る展開が、二転三転」なので、途中で休み休み読むより、ライブでレースを観るように、展開を楽しみながら一気に読みきるのがオススメですね。

皆さん、どうぞこれからもよろしくお願い致します。私も結局はロードレースの一ファンですので、知らない人がこの世界に少しでも興味を持ってくれたらいいなぁ、と思っています。

interview&photo(c)Makoto.AYANO/CYCLINGTIME.com
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