−今日は話題のプリンスカーボンの開発にまつわるお話を聞かせていただきます。その前にツール・ド・フランス2006のマイヨジョーヌ認定、おめでとうございます。やっと認められましたね。

グラツィエ(ありがとう)! そうなんだ、「やっと」という感じだね。オスカル(ペレイロ)の苦悩の日々も報われるよ。だからプリンスカーボンのマイヨジョーヌカラーモデルも日本のバイクショーに持ち込んだんだよ。

−ではさっそく、プリンスカーボンの開発の経緯を教えてください。そのアイデアはいつスタートしたんですか?

我々が初めて開発したフルカーボンフレーム、F4:13をリリースしたのは2005年のことだったが、それと同時にプリンスカーボンの開発は始まっていたんだ。

コンピューターによるシステム解析の会社であるS.O.E社とのコラボレーションを始めた。最新のコンピュータを使い、いろいろな使用状況をシミュレーションして製品をデザインしていく。そして2006年の初めに日本のカーボンファイバー製造会社トレカとミーティングをもったんだ。それは最高のフレームマテリアルを求める我々にとってとてもいい機会だった。なぜならトレカは世界でもっとも優秀な、カーボンファイバーのリーディングカンパニーだからね。それから6ヶ月の間、いろいろな解析を経てプリンスの概要が決まったんだ。

ピナレロ・プリンスの開発に当たってははデザインと素材、どちらにも完璧を求めた。プリンスは我々ピナレロにとってひとつのゴールともいえるバイクだからね。プリンスの名は、1997年の登場以来、もっとも有名で人気のあるバイクの名前のひとつと言えるからね。

それから約10年たって、違う素材で造られるとしても、再びプリンスが帰って来たことは我々にとってとても嬉しいことだよ。
 
−現在トレカがピナレロ社に供給しているのは、弾性率50tという超高弾性のカーボンファイバーですね。それは非常にスペシャルな素材だと思いますが?

そのとおり、トレカは1年前に50tカーボンを1kカーボンで仕上げたカーボンファイバー、"50HM1K"を供給してくれることになった。そしてそのフレーム用と同じカーボン素材を、クランクセットやハンドルステム、ハンドル、シートピラー、ヘッドパーツといったパーツ−もちろん我々のM.O.Stブランドのパーツ用としても供給してくれることになった。このトレカ製のカーボンは、現時点でもっとも優れたスペシャルマテリアルということができるだろうね。

−他のメーカーには供給されていないその特別な素材を、ピナレロ社だけが使用できるのはなぜでしょう?

なぜトレカが他のメーカーでなく、ピナレロだけにそのカーボン素材を供給してくれるのか? それは多分、私が2枚目だからかな(笑)。それは冗談として、それは私も分からないんだ。彼らが、私たちが世界でもっとも優れたバイクメーカーだということを認めてくれているのだろうか?

それは我々のテクノロジー、ノウハウ、ブランドイメージ、イタリアンデザイン、それらを総合的に判断して私たちピナレロ社を選んでくれたのではないだろうか? 何にしろ、光栄なことに違いはないよ。もちろん私はピナレロのバイクが最高だとは信じているけれどね。

−トレカは日本の会社ですが、コミュニケーションや仕事をする上での難しい点などは無いのですか?

トレカは非常に素晴らしい会社だ。非常にビッグな会社であるにもかかわらず、とても親切で、意欲的だ。彼らとはとても一緒に仕事をしやすい。そしてもちろん生産する素材の品質はナンバーワンだ。つまりジャパニーズクオリティとイタリアンデザインの結晶が、プリンスカーボンというわけだよ。

−あなたからみてプリンスカーボンはどういった特徴を持っていますか?

私がプリンスの製品版プロトタイプに乗ったときにまず感じたことは、第1にスタビリティ−安定感の高さだね。とくにダウンヒルのコーナリング性能が素晴らしいと思った。そして第2にスティフネス−剛性感の高さ、第3にコンフォート−快適性の高さだ。4つ目にライトウェイト−重量の軽さ。それらのベストコンビネーションだね。
人によってはプリンスカーボンの第1の印象に、その独特のデザインを挙げる人も多いだろう。こういった製品、とくに人々がサムシング・スペシャル−"何か特別なもの"を求める製品にとって、デザインは非常に重要な要素だと私は思っているよ。他とは違うもの、そして何か特別なものをもっている必要はある。たとえばオンダフォークは確かに「奇抜なデザインだ」という人が多い。ただし我々は同時に、性能としての剛性や硬さを備えていること、安全性が高い製品であることも忘れてはいないよ。他にもたくさんの要素を満たしていると思う。

−あなたはプリンスカーボンは世界でもっとも素晴らしいバイクだと思っていますか?

そうだね、とても難しい質問だが、あえて言おう。もっとも素晴らしいバイクは、多分私たちピナレロが考える「未来のバイク」だ。それがベストバイクだね。

−あなたにはもうそのアイデアがあるのですか?

私たちは進化を止めることはできない。プリンスカーボンは今という時点では確かに最高のバイクだろう。実際、多くのバイシクルビジネスに関わる人たち、ジャーナリスト、コンシュマー、そしてバルベルデらトップレーサーたちが「プリンスカーボンは今世界で最も優れたバイクのひとつだ」と言ってくれている。それは光栄なことだが、しかし私はまた新しいものを生み出す。進化に終わりはないんだ。

−プリンスカーボンの開発に当たって、何か困難に直面したことはありますか?例えば技術的な問題など...。

いや、それはまったくない。ただ、今感じているのはデリバリーの問題だね。多くの人がプリンスカーボンを注文してくれている。それはいいことだが、同時に良くないことに、手に入れるのに多少待たなくてはいけない場合がある。なぜならプリンスカーボンはほぼハンドメイドだから、そんなにたくさんの数量を一度に生産することができない。それは解決することが難しい問題だが、コンシュマーの方々には本当に申し訳なく思っているんだ。

しかも世界的には1年前からカーボン素材が不足する状況が生じている。しかしトレカは我々に安定的・優先的に供給することに同意してくれたんだ。

 
−新しく始まった、カラーの選べるMyWay(マイウェイ)システムは好評のようですね。

これからは日本の皆さんにもMyWayシステムを楽しんでもらえるようになる。ぜひピナレロ本社のホームページを訪れて欲しい。好きなフレームカラー、アクセントのカラー、ロゴのカラーなど、無数の組み合わせバリエーションのカラーリングでオーダーできるようになるんだ。論理的に78万7320通りのカラーリングが可能で、どんなリクエストにだって応えるよ。私はそれも大切な性能のひとつだと思っている。

−ひとつ大きな疑問があります。今ピナレロには2つのフラッグシップができました。プリンスカーボンとドグマです。今後ドグマはどういった位置づけになるのですか。プリンスカーボンに比べて、ドグマには依然アドバンテージがありますか?

もちろんだよ! ドグマはマグネシウム製で、カーボンとは異なる性質を持っている。そしてジオメトリー(設計)のカスタマイズが可能だ。プリンスカーボンにも10種類のフレームサイズを用意しているが、個人の体格に合わせて細かく調整できるのは依然金属溶接フレームのメリットだ。サイズとジオメトリーに関して、欲しいものが手に入る。そしてドグマならではの特性や乗り心地がある。

ドグマとプリンスを比べることは難しい、いや、むしろできないと言っていい。カーボンは今流行の素材だといえるが、マグネシウム、同じようにアルミニウムやチタンもハイエンドの素材だ。それは売ることが難しい面があったとしてもだ。なかでもマグネシウムはマグネシウムにしかない特別な魅力はある。ただ、カーボンに比べると少し重いこと、それは否定できない。

−あなたがスポンサードする日本の愛三工業レーシングの選手たちと話をしたのですが、選手のなかには2008年シーズンをドグマに乗って走りたいという選手が何人かいます。そのことについてどう思いますか?

もちろん選手がそう望むならドグマを選ぶことができる。選択は選手に任せているんだ。私は決してマーケティングのためにどのモデルに乗るかを選手に強いたりはしないよ。覚えているかい、オスカル・ペレイロはドグマでツール・ド・フランス2006を制した。ウラディミール・カルペッツ、パブロ・ラストラス、ホセイバン・グティエレスもドグマに乗っている。そのうちの何人かは、パリカーボンとドグマを日によって乗り換えたりもしていたんだ。

言ったように、ドグマにもメリットがあると考えている選手は多い。ただひとつ話しておきたいエピソードは、ケスデパーニュの選手たち、ペレイロを含む有力選手の何人かがドグマに乗りたいと言っていたが、ツール・ド・フランス2007前にプリンスカーボンを渡すと、全員がプリンスカーボンでツールを走ることになった。これが何を意味するかは明らかだ。

彼らはドグマでなくプリンスカーボンを選んだ。しかし来シーズンは違うかもしれない。ドグマやパリに還ってくる選手もいると思う。選手は生きもの。好みはいつも変わるものなんだ。好きなバイクを選べばいい。ピナレロには選ぶだけのバイクが揃っているんだから。

−多分、ここで話して貰うには少し早いとは思いますが、2009年モデルについて何かアイデアはありますか?

もちろんだよ! でも、それについては何も言うことはできないよ。多分フォトジャーナリストのあなたなら、一番にそれに気づくかもしれない。レースの現場で何かを見つけるかもしれないが、でも、まだそれは秘密だよ(笑)。

我々は毎年、何か新しいものを創り出す。それが私の仕事だからね(笑)。