−ここからの質問は、ひとりのサイクリストとしてのことお聞きしましょう。プライベートではどのように自転車を楽しんでいますか?  とてもたくさん乗っている、そして良くグランフォンドなどの大会に出場しているとお聞きしていますが。

そのとおり。まずその前にピナレロはグランフォンド大会の最初のスポンサーとして知られてもいるんだ。世界的に知られているように、グランフォンドは距離の長い大会で、それに出場するためにはたくさんトレーニングしなくてはならない。トレーニング無しに出場することはできないよ。そして私はグランフォンドで私のバイクをテストすることができる。プロレーサーたちよりも早くね。

−それが製品づくりに生きてくるというわけですか?

我々の製品の90%は実際、グランフォンドに出場している人たちのようなコンシュマーのためのものだ。私がグランフォンドに出ているときは、プロ選手のことやバルベルデのことは忘れている。プリンスやFP1、FP2、FP5など私たちのすべてのバイクがそこを走っているからね。

出場している人はプロレーサーではなく、私と同じように仕事を持っているし、家族を持っている。つねにそのことを忘れてはいけないと思っているんだ。出場しながらそれら一般ユーザーの視点でも製品テストをしているんだよ。

−年間、あるいは月間に何kmぐらい走りますか?

年間1万2000kmぐらいだね。それはシリアスなホビーサイクリストたちに比べればそんなに多くはないけれど、悪い距離じゃないだろう?。 1万キロは多くの人にとってクルマの年間走行距離だろうね。少なくとも私はクルマで走るより自転車で走る距離のほうが長いんだ。そして年間10以上の大会に出ているよ。ドロミテマラソン、グランフォンド・カンパニョーロ、グランフォンド・ピナレロ...。グランフォンドピナレロは、私たちのバイクと同じように最高を目指した大会だよ。日本の皆さんにも必ず楽しんでもらえると思っている。私たちが提案するオフィシャルツアーでぜひ参加して欲しいね。
 
−おそらくあなたはビジネスマンとして非常に忙しい身だと思いますが、自転車に乗る時間をどうやってつくり出しているんですか?

そのとおり私はとても忙しいが、幸運なことにそれが私の仕事だからね。ときどき妻にこう言うんだ「ヘイ、僕は外に自転車に乗りに行かなくちゃならないんだ! なぜなら新しいバイクのテストがあるから」とね。それは時々本当のことじゃない(笑)。でも、私にとってやりやすいのは確かだ。妻も止めようとはしないよ。「いいわよ行ってらっしゃい。どうぞどうぞ!」ってね。

そして外に出て、1時間、2時間、ときに3時間と走るんだ。でも走りながらいつもバイクのことを考え、テストをしているというのは本当だよ。

−あなたはサイクリングにパッション−情熱を持っていますね?

そう、じつはそれこそが問題なんだ(笑)。僕には情熱がありすぎる。

自転車に乗り出す前、私は太っていた時期があるんだ。今より6、7kgは重かったね。そしてタバコも吸っていた。ところである日鏡を見たらどうだ。お腹をつまんでこう言ったよ。「どうしちゃったんだ、これが僕か?」。私はまだ34歳だった。「太るには早すぎる」そう思ったね。

自転車に真剣に乗り出してからというもの、すぐに違いが現れだしたよ。身体と心の両方に。「僕も悪くないじゃないか」って思ったよ。そしてすぐに腰の痛みや身体の不調とはおさらばした。健康な身体、以前よりずっと回転するようになった頭...自転車に乗って得られるのは素晴らしいことばかりだ。パーフェクトだよ。そしてもう一杯おいしいワインが飲めるようになった。この素晴らしいスポーツを、心から楽しみたいと思っている。

−あなたの父のことを話してもらえますか? 彼は選手だったようですが、何か覚えていますか?

偉大な父だよ。彼が若い頃自転車で走っているシーンも覚えている。そして自転車を作り始めて、ピナレロの最初の段階をつくったのは彼だ。最初は小さな小さなショップだったんだ。それがどんどん大きくなって、今のようになった。私が28歳のとき、徐々にこの仕事を引き継ぐようになったんだ。
 
でも父は私の人生に自由な選択肢をくれた。「他の仕事に行っても構わない、好きなようにやればいい」「もし自転車の仕事をしたければそれをすればいい」、とね。今、家族の7人も皆、ピナレロで幸せを感じながら働いている。それはとても大切なことだ。

−職人としての彼から学んだことは何ですか?

たくさん。でも、僕がもっとも父から感じることは「親切」ということ。彼は誰よりも親切だ。そして彼からはビジネスにおいて「コンシュマーが神様だ」ということを教えられたんだ。「まず私たちの自転車に乗ってくれる人のことを一番に考えろ」と。それは絶対に忘れてはならないことだと思っている。

そして情熱をもって仕事をすれば何でも簡単になる、どんなことでも難しくなくなるということも学んだ。情熱を持って仕事をすれば、新製品を考えること、新しい技術を生み出すこと、新しい戦略を立てること、すべてが簡単に感じられるようになる。それは確かだ。すべて父から学んだ。

私は34歳から自転車に乗り始めた。それは多分遅いけれど、遅すぎることはない。「その歳なら、コンシュマーが求めているものが何かが分かるだろう」とも言われた。

−ピナレロ社のポリシーは何ですか?

ポリシーというより、我々ピナレロ社のゴールは、コンシュマーの求めるものをつくり、満足を与えるということに尽きるだろう。なぜなら、コンシュマーはポケットマネーで我々の製品を買ってくれる。彼ら・彼女らには仕事があって家族もいる。

我々の製品は2000ユーロ、ときに7000ユーロといった高額なものだ。それは普通の買い物とは違う。我々はベストな製品を作り出さなくてはならない。我々の製品を買った人々は、必ず幸せを感じなければならないからね。それはとても重要なことだよ。

私たちは自転車をつくっている。でもそれは買い物や仕事に使うものではなくて、楽しみのためだけに使うものだから。

ピナレロ社では、すべてのスタッフが高い意識で仕事をしている。情熱をもって仕事をし、コンシュマーが最高に幸せになってくれる製品を世に送り出す。それが先に言った「コンシュマーが神様」ということなんだ。
 
我々は決してバルベルデのためだけの自転車を作っているわけではないんだ。もちろんそれも非常に大切なことに違いは無いのだけれど。

もしピナレロを買ってくれた人が幸せを感じてくれれば、我々の仕事はいい仕事だったと言える。でももしそうでないなら、我々は「変わることが必要だ」と考えなくてはいけない。

この精神にもとづけば、いい仕事をすること、いい自転車を造ることは難しくない。いや、難しいことはなんだって乗り越えられるんだ。私たちピナレロのバイクを選んでくれる人たちは、きっと我々の製品に何か特別なものを感じてくれていると信じているよ。

interview:Makoto.AYANO